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■映画「トロイ」考察■

映画「トロイ」のカテゴリ別裏総括

■恋愛が描けていない■Romance(恋愛)

■アキレス編

「凡庸な脚本、長すぎる」というコメントをよく聞きます。
恋愛映画としての要素が定番パターンであるゆえに、いままでやりつくしたことだから「凡庸」と思われているのでしょうか?定番パターンだから、もう判った気になって「ありがち=凡庸」なのでしょうか。

「トロイ」は「戦士が愛する女性を得て変わっていく」というある意味定番のストーリーに恐ろしいほどに説明をつけてきます。
今までこのような展開においてその説明をした脚本は皆無と言ってもいいでしょう。たいていの根拠は「つり橋の上の恋」です。つり橋の上=戦争と言う命の危機感を感じるドキドキする状況に異性と恋に落ちるドキドキ。恐怖のドキドキと恋愛のドキドキを勘違いし、恋に落ちる。たいてい「君のような女性は見たことがない」「こんな気持ちになったのは初めてだ」とかいうセリフで女性キャラクターと観客に恋心を解説します。あるいは無言で「観客側の想像力にゆだね、観客個人に一番いい解釈を勝手気ままに補填させる」場合も多いでしょう。

ブリセイスはアキレスに救われたという理由だけで恋に落ちたわけではないし、アキレスも女性のいない戦場で彼女に偶然出会ったことで心を許したわけではない。彼らはそれぞれの相容れない価値観(世界といってもいいか)から互いを理解し歩み寄った。
彼らのあの少ない会話でいかに有益な意見の交換が彼らの間に、そして観客にも交わされたことか。そう思うと彼らの会話は疑問形で進展していることが多いですね。

しかし、単純な恋愛ものに慣れてしまった人からすれば「ほらやっぱり、ここで寝るものよね。しかもどうしてこんなに展開が遅いのかしら。長すぎ」「やっぱり愛の為に死ぬものよね。ありがちな展開だわ。凡庸な脚本」となっても仕方がないのかもしれません。


■パリス編

「恋愛の描かれ方が上手くない」(これはアキレスとブリセイスの恋が外見上定番で含まれるでしょう)「こんな理由で戦争が起こるなんておかしいからこの映画は駄目だ」と言われていると聞きました。「トロイ」は他の戦争映画にあるような「血生臭い」感覚はありません。しかし、「精神的に非常に辛い」と思いました。

それは「ヘレンとパリスの恋」が(原作よりも強調して)戦争を引き起こす原因になるから。さらに、この恋が薄いように感じるから。
「駄目だ」とおっしゃる方は、彼らの愛が怒涛の恋愛に描かれれば、「なる程こんなに深く激しい愛のためならば戦争が起こっても仕方がない!!」と納得がいくのに、妙に薄いので「本当に本気の愛なの?」とか「こんな価値の無い愛の為に戦争が起こるなんて可哀想。もっと納得が行くような作りに出来ないの?出来の悪い映画」と思ったのかもしれません。

では。戦争=争い=死に値する、と納得できる理由とその価値はいかほどのものでしょうか? 私は新聞に強盗殺人の記事が載っていて、奪われた金額が小額だと一寸凹みます。うわ…そんな金額の為に殺されたのか。その三倍あげるから殺さないでほしいよ、って(無理な話)。
ならば貴方はいくらの為なら殺されてもいいのか?と質問されても私は例え何桁の金額であっても殺されたくない。とにかく何が何でも死にたくないです。
五円でも五億円でも死の価値は変わりません。死は平等で、何の価値もありません。

それを表現する為に、「トロイ」はあの恋を(パリスがメネラウスに挑戦するまでは)意図的に非常に薄く書いていると思うのです。

原典ではヘレンは三人の女神のいさかいに巻き込まれ、賞品のように自分の意思なくパリスに差し出されます。誘拐事件の被害者(しかも王妃)を取り戻す戦争。それなりに納得がいきます。メネラウスがヘレンを愛していたとすればなおのことそうでしょう。

しかしこの映画では、パリスとヘレンは自分たちの立場(王族)を理解しながらも恋に落ちる。
この恋愛を上手く描こうとするならば、単純に互いの立場を知らない状態で、世間しらずで純真な王子がヘレンの美しさに一目ぼれした、ということにすればいいはずです。
しかしスクリーンに登場した時には既に「昨夜どころか一週間前から」あやまちを犯している。しかも、パリスは「あちこちで商人や神殿の女と寝る」ような性格になっています。(これは実際に原典がそうなんですが。最初に聞いた時に「オーランドなのにーー!?(偏見)」と吃驚しました)

〔…これに関して、脚本の設定からして既にそうなのですが、これをさらに薄く描く方向に持っていたのはおそらく監督であろうと思います。スクリプトを読むとヘレンの共感度がかなり増すような描写がちらほら見受けられます。彼女はトロイに来るまでに、そして来てからも悩み苦しんでいるのが分かります。そこはすっぱり切ってある。一寸かわいそうになるほど。〕

過去にこの原典を基にした映画が拾うところを捨て、捨てるところを拾う。
「こんな怒涛の愛の為に起こるなんて素晴らしい戦争ね」と思われたくないために。むしろ、こんな薄く描かれた恋愛の為に起こる戦争の犠牲の大きさを強調するために。

 
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