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映画「トロイ」のカテゴリ別総括

■恋愛ものとして■Romance(恋愛)

■アキレスとブリセイス
あそこで二人が結ばれると言うのは確かに定番です。
しかし、お気づきでしょうか?あの二人は愛情の言葉を口にしない、まして「愛してる」なんて一言も言っておりません。本当に定石通りなら全部言葉で熱烈に口説いてしまう。「君のような女性は見たことがない」「こんな気持ちになったのは初めてだ」とかなんとか言って口説いて女のかたくなな心をほぐす、というのなら確かに定石通りです。

アキレスは女口説くタイプではありませんし、どちらかと言えば行動の人です(苦笑)
そのイメージを崩さずに演出したら、それこそレイプに見えかねないし、ブリセイスの方もあっさり同意したら、今までの強く気高い女のイメージが失われてしまう。だからこれまでのパターンで言ったら、「単純バカな戦士が初めて愛を知ったことを言葉で熱烈に訴え、女と観客を納得させ」ていた訳です。

ここで女の側にナイフを持たせることが解決しています。ナイフをのどに突きつけられてもなおアキレスはブリセイスを抱こうとするのをやめない。アキレスはここでいかに彼女を切望してるかを実証してみせる。まさに命を掛けて。

そしてブリセイスの方も力の強い男に押し切られてではなく、自分の意志でアキレスを受け入れる。ナイフを突きつけている状況は彼女の方を優位にしていますが、それを自ら捨てることによって、命を掛けた熱烈な愛の告白を受け入れる。

アキレスはここで賭けに出ているのです。「人殺し」の自分を受け入れてもらえるかどうか。この時点でアキレスはブリセイスの「人殺し」という評価を受け入れていますが、ではそれも含めた自分を、ありのままの自分をさらけ出し、なお丸ごと受け入れてくれるのかどうか。この恋心を受け入れてもらえるのかどうかを。

アキレス自身は人を殺す行為を決して楽しんではいないし、戦士としての名声を得る為の過程(手段と言っていいでしょう)として仕方の無いこと、としてやっているにすぎない。でもそこには葛藤を感じていた。だから人殺しという評価を受け入れられない。葛藤と向き合わなくてはならないから。

そしてそのことは先にパトロクロスに語ったように彼を苦しめている。 アキレスはこの映画の前半で「男なんて哀れなものだ」と語ります。彼は戦場で死んでいった者たちの死は哀れなものだと感じている。そして戦場で戦い、勝ち抜いてきた自分は間違いなく男たちを哀れにしている存在です。そんなことは彼自身望んでいないのだけれど、彼らの死の上にアキレスの栄光は成立している。ここに葛藤が生じる。

自分が男たちの命を奪っていると言う自覚があるから「黄泉の川の向こうから早く来い」と呼ぶ声が聞こえるのでしょう。しかし彼としてはお互いのそれぞれの栄光を得るための対等のやり取りであると考えているはずです。人殺しと言う行為とは違うものだと。

でも葛藤があるからこそ男たちを哀れに思い、弱音とも取れるようなやりきれないような言葉を吐いている。彼はこの葛藤に苦しみ、上手く向き合えずにいると私は思うのです。

でもその人殺しと言う評価を自分で受け入れ、かつ恋する相手にもそのままの自分を受け入れてもらえてこの夜がどれほどアキレスに重要な意味を持つか。だから死の間際に際して、彼は「戦いの日々に安らぎをくれたな」と彼女に伝えるのです。

恋に落ちた戦士が大きな変化を見せ、愛のために生きる映画は確かにたくさんあります。
しかし、その変化を語るのは難しく、殆どの作品が語ることを放棄してきました。いかに皆観客にわかりやすく説明的なセリフでそのシーンが演じられてきたか。このシーンで、この演出で、これだけのことを表現することは驚嘆に値します。

■パリスとヘレン
【注意!】以下の条件に当てはまる方は読まないでください。
超大作恋愛映画大好きで、パリスとヘレンのカップルはトロイ国が滅ぶに足りる美しい愛だと思う。

OKですね?うっかり読んで怒らないでください。では以下をどうぞ。

パリスとヘレン、彼らの愛はかくも悲劇的な戦争を引き起こします。この作品のキャッチコピーは「それは、史上最大の愛のための戦い。」です。(因みに海外のキャッチコピーは「For honor(名誉の為に)」)このような恋愛は映画としては定番です。しかしこれほどの愛をメインに持ってこず、サイドストーリーとして描き、そしてあの結末は定番でしょうか。

パリスはこんなセリフを口にします。
「この国から逃げれば二人に安息の時は無い。人々に罵られ神に呪われる。でも愛している」
「この身が焼き尽くされるまで君を愛す」
「二人でここから逃げよう。宮殿も下僕も必要ない。鹿や兎を狩れば生きていける」
「それならば宮殿の上でメネラウスに見つかるように叫ぼう。”彼女は僕のものだ”と」

正直なところ私はこのセリフ達に失笑しました。罵られて済む問題じゃない戦争を引き起こすことを予測せず、死ぬことが美しいなんて簡単に言え、経験したことも無いのに住まいや召使が必要ない、鹿や兎が簡単に狩れると思っている。そして最後の言葉。

そんなこと叫んで何になるの?
〔個人的にこの発言を「トロイの中心で愛を叫ぶ」略して「トロチュー」と呼んでます。すいませんファンの皆さん〕

私は基本的に(食わず嫌いもありますが)恋愛映画が嫌いです。恋愛だけで二時間を持たせる為に「やたら大袈裟で根拠もなく”運命の恋”ぶり、周りの迷惑はお構いなし」だからです。
世間では「障害を越えた一途な愛」というそうですが、そもそもこの「障害」と言うものが「他の人々の平穏な生活」な場合が多い。

この二人はそれはもう完全にこのパターンです。やたらと顔がいい二人だが、何故恋に落ちたかイマイチ理由が分からない。この恋が原因でさまざま事件や障害が生じるが自分たちでは対処できず、悲劇だと言っては嘆くだけ。でもお互いを運命の相手だと確信しているので、思い切れず、ぐずぐずと悩む。
この作品もパリスとヘレンの美しい恋愛ものとして描くなら、特別変える必要がありません

以下、管理人’sカット版「トロイ」

ヘクトルは当初怒りはするものの結局ヘレンを連れて帰国します。パリスの真摯な愛に打たれて(がふ)共に戦うことを決意したからです。

トロイは国を挙げて二人を歓待し、プリアモスは「これほど美しいとは」と受け入れ、面と向かって非難しません(認められた、と取る)。
トロイ軍は美しい彼女(とパリス)を守る為に戦います。戦力にものを言わせヘレンを奪い返そうと海を越えてやってくるのは、ヘレンの元夫メネラウスと彼の兄アガメムノン率いる5万のギリシア連合軍。最狂戦士(誤字にあらず)と名高いアキレスもいます。それほどヘレンは魅力的なのです。

互いの兵士が彼女(とパリス)の為に戦い、倒れていきます。
ヘレンは涙にくれます。ああ、私の為に、私たちの愛の為に沢山の人が死んだ。パリスのことは愛しているけれど、私たちの愛の為に兵士を死なすことは出来ない。そしてパリスは愛を証明するために元夫に戦いを挑むという。トロイの国の為にも、パリスの為にもこの愛は諦めなくては…スパルタの船に帰ろう…
(心情セリフ:自らの運命の愛を諦めるなんて私ってなんて可哀想可哀想可哀想…)

……言ってて嫌になってきた。

彼らは、少なくともパリスは愛が何よりも尊いと考えている。愛のためになら命を捨てても構わない。愛の為に命を賭けて戦うのってカッコイイと。ところが実際のところ、「愛の力」が戦闘力を補填するなんて神がかりな奇跡が起きるわけもなく、あっさりと死の淵に立たされる。「死んで愛を証明する」なんて覚悟は吹っ飛び、みっともなくもお兄さんの足に(本当に)すがりつくしかない。

そう思うと足を縫われるシーン、私読み間違えていますね…。
「僕は卑怯者か そうだ 恥は捨てた 名誉も ただ死ぬことが怖くて」
「貴方は立派だわ 愛の為に戦った」
「君を裏切った」

ここの「君を裏切った」というのは、「君と美しく恋愛を演出する舞台から、僕は降りちゃいました。死ぬのは怖いから」的な意味でしょうか。
だから、この後から彼は真剣に弓の特訓を始めます。生きる為に。生きてヘレンを愛する為に。

 
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