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■映画「トロイ」考察■

■その六■

さて今まではアキレス、ヘクトル、パリスの動機について長々と語ってしまいましたが(ホントにな…)アキレスとパリスはこの戦争を通してヘクトルの側に近づいたと述べました。どんな風に変化したかと一言で言うと、私は「愛するものに対して責任を持つということ」だと感じた。

他人の命など意に介さなかったアキレスや、自分の幸せが他人を不幸にする可能性など考えもしなかったパリスが、それぞれの愛するものを守るため最後の戦いに向かう姿は、冒頭からはとても想像がつかない。

アキレスはパリスの矢を受けて倒れます。泣きながら駆け寄るブリセイスに「トロイは滅びる。早く行け」とアキレスは何度も繰り返します。けれどブリセイスは立ち去ることが出来ない。何故なら愛するアキレスが自分を愛していることを確信できたから。そして彼女を愛したゆえに彼は死を迎えようとしているから。

アキレスが彼女をプリアモスとともにトロイに帰したことで、この恋は一度終わりを告げられています。アキレスの方から「トロイへ帰れ」と言うことで、この恋を俺はあきらめたときっぱり宣言している。ネックレスを渡すことで彼はもう愛情が無いからと言う理由からではないことを示しますが、これで終わりだと告げている。このシーンでブリセイスが何を思っているのかは不明です。

セリフがないので我々としては彼女の表情と、前後の事情から推測するしかないのですが。ただ彼女がここでアキレスに理由を問いただしたりしないのは、彼女自身の方にもあきらめようとする理由があったからだと思う。

ブリセイスがこの恋をあきらめようと思ったのは、パトロクロスとヘクトルを失って、お互いの立場の違いをはっきりと思い知ったからだと私は思う。二人はお互い敵対し、その間の溝は深く大きく隔たっていると痛感したのだと。
じゃあ乗り越える努力をすれば、と言う話になるのですが男の方はその意志がない。ブリセイスが二人の間にある溝に呆然としたところに、男の方から別れを告げられる。

この溝を乗り越えるほど愛されていなかった、と取るのは穿ちすぎかとは思いますが、二人で生きていこうかと一度は考えたけれども、敵味方の溝は大きくてアキレスの方はあきらめたのだからもう無理だと思ったのかなと。
思うだけで実際は思いは残っているから、別れに際してずっとアキレスを見つめ、贈られたネックレスをずっと身につけている。

でもアキレスは自分を助けに来てくれた。敵方に帰した自分を。これは自分を敵とは思っていないという明確な意志の表れです。命をかけて、たった一人で来たアキレスを見てどんなに強く愛されていたか彼女は確信できたと思います。ここで二人は溝を飛び越えている。

 
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