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■映画「トロイ」考察■

■その五■

アキレスはモチベーションの点でヘクトルの方に近づいたと述べました。

ヘクトルのモチベーションとは冒頭での演説シーン、「神々を敬い、妻を愛し、国を守る」そのものです。アキレスも冒頭の演説で「不滅の栄光」が彼のモチベーションをはっきりと示します。(もーここ何度見てもうっとりします・・・二大カリスマの立場の違いを本人たちに宣言させることで、こんなにも鮮やかに対比させる。しかも連続したシーンで。ゾクゾクします)

しかしアキレスは最後には愛する女性を守るために戦いに向かう。国を守るとは行かないけれど、自分以外の誰かを守るために戦おうとする姿は、冒頭から示されてきたヘクトルの戦う姿勢と被ります。

それはパリスにも言えることで、彼もヘクトルの側に近づいた印象がある。
パリスは兄に対して「愛のために」戦うと宣言します。さらにギリシャ軍との全面戦争を避けるため、メネラウスとの一騎打ちを決意します。動機の点から考えると、傍からは英雄的な行為ともとれるでしょう。(実際はパリスのせいで始まった戦争なんだからこれくらいは やって欲しいものだ。でもパリスも英雄的と思ってるんだろうなあ・・・)

一騎打ちを前にしてプリアモスはパリスにトロイの剣を渡します。トロイの建国よりあるトロイの剣、「わが民の歴史が刻まれた」と言うように、トロイの象徴とも言える剣を渡し「これで戦え」と言うプリアモス。その気持ちを推し量ると、無謀な戦いではあるとはわかっていてもパリスがそんな決意したのは、やはりとても嬉しかったのではないかと。甘ちゃんだったパリス、国政に興味を示さなかったパリスはかわいい息子ではあったけど、王という立場から見れば頼りなかったはず。

けれど国のことを考えて、自らを犠牲にして戦うと言ったパリスをプリアモスはさぞ誇らしく思ったと思うのです。だからトロイの剣を渡した。明日死んでしまうかもしれない、だがその行為はトロイの歴史に残る、それにふさわしく誇り高く戦え、父や祖父のように、その名に連なるようにと。
パリスももちろん死の覚悟をしているわけですから、父から剣を渡されて深く感動したことでしょう。トロイの剣を見つめながら自分の愛のための戦いは、生死に関わらず英雄的な行為と称えられ、トロイの歴史に刻み込まれると彼は確信している。
であればこそ父はこの剣を渡してくれたのだと。その気持ちと渡された意味をきちんとパリスは理解した上で、それに応えたいと思ったはずです。

実際のところは醜態さらして終わるわけですが(とほほ・・・)ここで剣の価値をちゃんと理解しているから、彼は攻め寄せるギリシア軍を前にして取りに戻る。(と私は思うんですが。でもオーランドの演技的にはこの上剣を失ってこれ以上父をがっかりさせたくない…と言うような気もする。だってあんまり悲愴な顔してんだもん…。どう思います?どっちも、かな?)

ヘレンに足を縫ってもらいながら、パリスは「僕は腰抜けだ」と言います。パリスは自分がヘレンも国も守るんだという気で一騎打ちを挑んだのだろうけど、そのどちらも投げ捨てるかのように逃げ出してしまった。ヘレンも国も愛してるのに、死ぬことが怖くて愛しぬくことが出来なかった、その覚悟の甘さに(なさではないと思います。覚悟は一応あったと思う)彼は失望したのでしょう。あの結果に一番失望しているのはパリス自身です。

ここでこのままじゃだめだと思って自分の行動を変えていく。変に卑屈になって自分から惨めな方に行かない(有体に言えばグレない)ところが、元々素直で、性格のいい子の表れなんだなあと私は思った。ちょっとわがままで考えが浅いけど、素直でまっすぐなところもあるから、周りからあんなに愛されるのかなと。なんにせよ、「自分はだめ男だから」と言って逃げたりしないところは、素直に感心できました。いい子じゃん、て。

トロイ落城を前にして、パリスはアイネイアスにトロイの剣を渡します。「この剣がある限りトロイは滅びない」と言う言葉は、それを確信しているというよりもそうであって欲しいと切望しているように私は感じる。
国を滅亡させたくないという願いを込めてトロイの剣を托し、トロイ城に留まろうとする。今度も死を覚悟しますが、死の恐怖を知った上でそこから逃げない決意をしている彼は、その覚悟の度合いも違うでしょう。死を理解したパリスは生の価値をも理解した。だからここに留まろうとする。そこに見えるのは今度こそ国を、愛するものの命を守り抜こうとする決意です。それはヘクトルやプリアモスが持つ動機と同じものです。

ここへ来て彼は初めて王家のものとしての資格を得たように思うのです。国民を守るという王家の使命、それに応えようとする彼には父や兄の精神が受け継がれている。ここでまたパリスもヘクトルの側に近づいたと私は感じる。

 
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