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■映画「トロイ」考察■

■その四■ヘクトルのモチベーション

前述でアキレスのモチベーションについて語りました。ではヘクトルの方はどうでしょう。

彼らはさまざまな点で対になる存在です。
その本質は驚くほど似通っている。(神様を当てにしない、自ら先陣を切って戦う、戦争の正当性を信じていない、など)しかしそのモチベーションは正反対です。アキレスは名誉のため(個人的な理由)、ヘクトルは国を守るためです。この決定的な違いのため、彼らはお互いに共感することが出来ず反発しあう。本人たちも似ているなどとは露ほども思わないでしょう。そしてこのモチベーションの違いのゆえに彼らの戦い方の質も違ってくる。

ヘクトルは言うまでもなく国を守るためです。この信念は決して揺らぐことなく彼を最後まで支える。たとえこの戦争自体を空しいものだと感じることがあっても、彼はこの信念があるからやり遂げることができる。そして自らの名誉には興味がなく、あくまで国全体を考えて行動を取るから、彼は常に前線に立ちながら、後方の軍のことにも気を配っている。(戦況を読んで退却を支持したりね)

アキレスはもう個人主義だから、同じように先陣にはいるけれどもう勝手に突き進んでいって、後ろ後ろでやればいいという感じです。でもどちらも最前線で見事に戦うから兵士には絶大に人気がある。ただ捉えられ方は全く違うでしょうね。どちらも信頼はされているが、その理由は全く異なると言うか。

アキレスは全く持って戦士の戦いぶりです。自ら先陣を切って、超人的な強さで敵をなぎ倒し突き進んでいくその姿に間違いなく兵士は熱狂させられるでしょう。兵士たちはその姿に憧れを抱いたことと思うのですが、同時に恐れも抱いたと思う。

アガメムノンが指摘するように、アキレスは忠誠心がない。これはいつ同胞を裏切るかわからない、そんな危険な存在です。そもそも兵士と動機が違って個人的な理由で戦うから、気に入らなければあっさり裏切る恐れがある。実際気分を害したら進軍しなかったし、ブリセイスを救うために兵士に獣のごとく襲い掛かる。
見事に戦えば戦うほど、味方に勝利をもたらすど彼は脅威の存在になる。今軍を同じくして戦っている間は心強くて、自分もあのように戦うのだと鼓舞されるだろうけど、「アイツが敵でなくてホントに良かった」とも思わせられるような存在です。

ですが同じ戦士同士であれば強い尊敬の念を抱くでしょう。例えばアイアスのように。余談ですが浜辺でアイアスがアキレスに握手を求めるシーンはきちんとかけていてとても好きなシーンの一つです。王でありながら同時に戦士であるアイアスはアキレスをちゃんと評価している。他の王たちはひざまずきもしないが、自ら戦場で戦う者は先陣を切って戦う者の偉大さを理解する。非常に納得がいく箇所です。

ヘクトルの方はもちろん自国に忠誠を誓い、それゆえに戦っています。アキレスとの違いはこの点にあると思う。兵士たちの理由と全く同じものがヘクトルの動機です。兵士たちと根っこのところでこの人は繋がっている。
アキレスは戦士ですが、ヘクトルは兵士だと私は思う。ただし「偉大な」兵士です。ヘクトルは自国に忠誠を誓うあまり、自分は愚かな行為と思っているにもかかわらず、ギリシア軍に奇襲攻撃をかける。王の決定に従い、命を落とすことも辞さない。

これは正にパトロクロスが言った「兵士だから(Soldiers obey)」と言う理由からです。どんなに勇敢で、アキレスと並び称される戦士でも彼のモチベーションは兵士のそれです。
ヘクトルが勇敢に戦えば戦うほど、同じ理由、同じ正義を信じて戦う兵士たちは自分たちの正当性を強く信じることができ、一致団結出来るでしょう。アキレスが神のように見事に戦う時、ギリシア軍は破壊と戦いをもたらす軍神アレスの姿を見るのでしょうが、同じように見事にヘクトルが戦う時、トロイ軍はトロイの守護神アポロを見るでしょう。

最後の戦いではアキレスはこれまでとは違った理由で戦いに赴きます。愛するものを守りたい一心でトロイ城を駆けるその姿は、そのモチベーションの点でヘクトルの戦う姿と被って見える。
最後の最後でこの二人は近づく、正確にはアキレスがヘクトルの側に擦り寄ったように感じるのです。

 
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