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■映画「トロイ」考察■

■その三■アキレスのモチベーション

アキレスが戦闘に対する受け止め方が変わったと書きました。
前半はなんか子供じみた印象があってたのに(アガメムノンのために進軍しないと言い張るところなんかはまるでだだっこ)態度が落ち着いている。大人になった?という印象があったのです。でも何故?

ここのところは上手く言葉で説明できなかったのですが。さすがベニオフ、スクリプト見たらカットされたセリフの中にありました。
神殿でのアキレスとヘクトルの最初の邂逅のシーンです。非武装の神官を殺したことを非難されたアキレスは、「俺は殺してない、老人の喉を掻き切るようなことは名誉に反することだ」と反論します。するとヘクトルは「名誉だと?名誉のために戦うのは子供か愚か者だけだ。私は国を守るために戦う」と吐き捨てるように返します。

なるほどね。確かに権力や金に興味のない子供は名誉=ほめられることが嬉しくてがんばるから。そうか、この人モチベーションが子供の時のままなのかと。

ここから先は妄想入ってきて披露するのがためらわれるのですが。アキレスは子供の時、というか実際に戦いを経験するまでは(戦士として訓練を受けている時代は)楽しく生きていたんではないかと思う。戦闘能力は群を抜いて高く、何をやっても上手くいく。戦えば誰にも負けない。もう周りからほめられてそれもうれしい。挫折感も味わったことがない。そりゃ楽しいでしょう。

でも訓練や模擬戦闘と言ったお気楽な戦いを経て実際に戦争を経験したら、そんな気楽なものではなかった。戦闘能力が高いから負けたりすることはないけれど、前みたいに嬉しくない。戦場において負けないと言うことは人を殺すと言うことです。それは当たり前のことなんだけど、実際に経験して重苦しい気持ちを味わってアキレスは戸惑ってしまったのではないかと。

やってることは(程度は違うけど)同じなのに全然満足できない。でもこれが自分の得意分野だということは重々承知しているし、戦うこと(敵と直接切り結ぶと言う段階までの)自体は嫌いじゃない。他にやりたいこと・やるべきこともないし、そもそも戦士として生まれてきた自分には他に選択があることなど思いもしない。戦士として生きるしかない。でもなにかモチベーションがないとキツイ。この葛藤に折り合いを付けなければやっていけない。楽しくないことを続けるなら、それなりに意義を見出す必要がある。

金とか権力には興味はないけど、子供の時はほめられることは嬉しかった。だったらいっそ最大級の賛辞を得られれば、そこまで行けば満足できるだろうか。もう完全に妄想ですね(涙)

冒頭の海岸のシーンでアキレスは名誉名誉と連呼してる割には、ギリシア軍に称えられてもちっとも嬉しそうじゃないと感じるのです。なんかもう惰性で名誉が欲しいなんて言ってるのかと疑うくらい、この人はやる気がない。子供の時の記憶を頼りに、戦闘でその才能をほめられれば満足するんだって思い込んで(思い込ませて)いるのかなと。

パトロクロスに「戦う準備は出来たか?」と聞くのもそのせいかしら。お前はこれが初めてだから知らないだろう、だから言っとくが思ったよりずっときついんだ、モチベーションがないとやっていけないぞと。
アキレスがピティアでパトロクロスと訓練してる時は本当に純粋に楽しそうで、あそこが一番楽しそうにしてます。アキレスはあの程度の気楽なやり取りなら楽しめるのかな?そうであるからアキレスはパトロクロスを連れて行くのに乗り気じゃなかったのかな?

自分もこのくらいの時期が一番純粋に楽しかったから、実際に戦闘を経験させるのは不憫な気がしたのかな。そう考えるとパトロクロスへの愛情は、そのまま過去の自分への郷愁、自分が失ってしまったものへの憧れ、それに対する執着のような気がしてなんだかちょっと切ない。

 
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