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映画「トロイ」のキャラクター考察

■プリアモス■(ピーター・オトゥール)

プリアモス トロイ国王。高潔な人格者であり、国民からも慕われ、尊敬の念を集めていますが、彼の下す判断が適切、かつ公平であるかと言われれば、うーん、そうであるとは言えないのですね。王としても、父としても。
彼が無能であると言うわけではないのですが。

■王として

慈悲深く、人間的には大変理想的な方です。
一国の君主としては国民の尊敬を一身に集めているようですし、その立派な人柄は他国にも知れ渡っているほど。

しかし彼が下す判断は、現実的ではない。
彼は国の命運を分ける重要な局面に立ち会いながら、神々を崇めるあまり、その判断基準を人間の側ではなく神々の側に求め、決断を下す。物事の現実的な側面を見ていないと言うのは、やはり一国の指導者としては許されるものではないと思います。

ヘクトルに進言されても、神官長の伝える神託のほうを採用したり、神に対する不信の念をヘクトルが口にするたびたしなめたり…とにかく信心深いあまり、現実から離れてしまっている。

トロイは何世紀にも渡り、敵の攻撃を退け、他国に隷属することなく平和を保っている。プリアモスの治世の間もそれは続いていた。どのような他国の攻撃にも耐えてこれたのは、何よりも鉄壁の防御を誇るトロイの城壁にあるとヘクトルは考えています。しかし、プリアモスに言わせればそれは神々の庇護の賜物であるのです。

ヘクトルから見ればこれは浮世離れした話ですが、プリアモスには王としての長い経験に裏付けられた確信であったはずです。恐らく、プリアモスは他国からの襲撃のたび、神々に深い祈りを捧げ、そして全てを撃退してきた。神々は我らの願いを聞き入れ、守ってくださった。そして今度もまたそうであるはずだと。

プリアモスとしてはヘクトルは神々のことを何もわかっていないから、「若い者は黙っていなさい」的な感覚であのような判断を下していたと思うんですよね。神々にお任せすれば間違いないんだよと。

ヘクトルをないがしろにしているわけではないのですが、判断基準が神様一番、人間二番なんですね。ですがギリシア軍上陸直前の早朝、一人神殿で祈りを捧げる時の表情は、本当に真剣で、悲痛でさえあり、国のことを憂えているのが伝わってくる。トロイの平安を祈り続ける彼は、国を心から愛する王です。こんなに国を思う君主はそうそういません。その点で彼は理想的な王であり、ゆえに国民の愛を一身に受けることが出来るのですね。

■父として

では次に父親としてどうかというと、ヘクトルとパリスへの接し方を見るにつけここでもやはり彼は公平でないと感じてしまうんですよね(涙)。

どう贔屓目に見ても、この二人の息子は出来に差があると言うか(泣笑)ものすごくはっきり言っちゃえばパリスは将来が心配です。国政を担うことなど興味はなく、それゆえに王家のものとしての自覚にも乏しい。国のために何かしなくてはと言う気概もないし、努力もしていない。

ヘクトルはもう正反対で、責任感もあり、王家の者として立派に務めを果たそうとし、また指導者としての能力もある。どう考えてもヘクトルの方が出来がいいと言わざるを得ない。

けれどプリアモスはどちらにも分け隔てなく愛情を注いでいる。父親から見ればヘクトルは自慢の息子でしょう。でもパリスだって可愛い。父としてはヘクトルの方が出来がいいからといってパリスをないがしろにしたりせず、どっちも大事な息子なんだよと言うつもりで差をつけないよう、同じように愛情を示してきたと思います。

でも子供たちから見ればやっぱり違うでしょう。ヘクトルは父の期待に応えようとして努力してきた。そして国民からの信頼厚く、トロイの守護者として期待されてる。
しかし努力も何にもしないパリスが同じように愛されているのを見たら、ヘクトルとしてはやはり自分の方は愛されてないと感じるでしょう。

パリスとは違って、自分は努力して父の期待に応えて初めて同等の愛が得られると、そう考えても不思議はない。だから父にたしなめられたり、意見が通らなかったりするともう反論出来ないのでしょうね。愛情を失うような気がして。

プリアモスもヘクトルを片腕として頼りにしてそのように接しているし、彼らの関係は父と息子と言うよりも、王と臣下のそれに近いと感じることもしばしばです。

けれどヘクトルの遺骸を取り戻すため、彼はたった一人でギリシア軍の陣地へ赴く。
部下に命じたりせず、彼は自ら部下も連れず敵地の真っ只中へ向かう。やはりヘクトルも彼にとってはかけがえのない息子であったと強く感じます。父として愛情深くヘクトルを育て、その成長を楽しみに生きてきたのだと感じられてならない。

息子を失い、そしてさらに彼は国が滅亡するのも目にした。彼自身はすばらしい人間であったのに、このように悲劇的な最期を迎えなければならなかったことは本当に悲しい結末であったと思うのです。

辛口でしょうか、やはり(汗)お父様大好きなんですがね…。

 
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