■「パトロクロスの火葬の時アキレスは呆然とした表情だがこれをどう読むか」
このシーンでは泣かないアキレスがヘクトルの遺体の前で涙を流します。
きっとアキレスはパトロクロスの時は「哀しい」ということが分からないのだと思います。
殺した相手が恨む(死んだ相手の顔がでてきて黄泉の川の向こうから早く来いという)とか、殺した相手に連なる者が仕返しに来るということは(おそらく感覚として)理解しているのだけど、言い方を悪くするならば「財産を奪った」泥棒を恨むとかその辺の感覚でいたと思うのですね。
もちろん今までもミュルミドンが死ぬこともあったろうけれど、戦士だからこっちが殺すのだから殺されてしまうのもおあいこだと思ってる。
パトロクロスは先のお話を引用するならば「戦士として扱ってない」から。
いざ実際にパトロクロスが死んだときヘクトルを恨んだし、もちろん復讐に燃えたのけれど「哀しい」と言うことは理解できないから涙も流さず呆然としているのだと思います。
ヘクトルを殺した後も浮かない顔をしてますよね。きっと命を奪った者から命を奪い返せばこの虚無感は消えると思ったのでしょう。なのに晴れない、何故晴れないかが理解できない。だからあそこでパトロクロスの首飾りを無言で遊ばせているのだと。
プリアモスの懇願で「愛しているものを失う時の感情」が「哀しい」と言うもので、自分だけが感じた虚無感ではないことに気付き、ここで初めて自分のしたことの重さに気が付いた。
ヘクトルの遺体に向かって言う「もうすぐ会おう兄弟」と言う言葉。
怒りに任せてお前に復讐したのだから、きっと自分も復讐される運命にあるのだろう、それは仕方がないことだ。そう考えたのでしょうね。
私がこの作品が優れていると感じる点の一つは、ブリセイスに出会ったことだけが彼の心を変えたのではないし、プリアモスの懇願だけに心を打たれたわけではないと言うことです。
ブリセイスと恋に落ちたことで、「妻を持ち普通の生活を送る」選択があることに気が付きます。
それは二人の会話でブリセイスの「戦いを捨てられる?」(吹替)(字幕だと「味方を捨てられる?」)に対して、一瞬目が泳ぎ、質問に質問でかえす「トロイを捨てられるか?」で解ります。(結局二人とも答えない)
この時点では、アキレスにはまだ迷いがある。完全に戦いを捨てるほどに心は変わっていないのです。
いとこを殺されたブリセイスの涙を見ても謝罪の言葉はありません。あの時点では「パトロクロスの仇を討って何が悪い」と思っているはずです。でも気まずいと思い、心が晴れない位は変わっているのです。
おそらくブリセイスがいなければ、アキレスはプリアモスの懇願に感心することこそあれ、涙することはなかったと思います。
■俳優について
アキレスを演じるのはいわずと知れたブラッド・ピット。
個人的に好きな俳優さんで「ファイト・クラブ」以降の映画は大抵見ていますがこの人4本に一本位の割合でしか「私の好き好きブラピ」に当たらないこまった俳優さんです。それでも辛抱して観に行く私も私だが…。ちなみにもう一人の好き好き俳優ジョニー・デップは5本に二本位は当たる。
よもや彼が「トロイ」で本気を出すとは思っても見ませんでした。
「イリアス」を知らない私は、これ本気なのかなあ?と疑問だったのですが、一般レビューでも書いているように、師匠曰くアキレスは実に面白味のない、単純傲慢男として描かれているそうで。こんな演じがいのない役なんか何で受けたんだろう。しかも大作系なんて嫌いなはずなのに。…金か?と酷評していました。
すいませんでした!!(土下座)貴方めちゃくちゃ本気でした。
この作品にはまって、関連インタビュー記事をむさぼる様に読みましたが、ブラピも当初この仕事のオファーを受けたとき「イリアス」を読んだ事があるので、こんなつまらない役はやりたくないと断ったそうです。
ところが、監督の説得を受けベニオフの脚本を読んでとても感銘を受け、この仕事を受ける気になったとのこと。あああ、この人に惚れ直します。
しかし、今回の作品は本当にきつかったみたいですね。筋肉つけるトレーニングも大変だったらしいし、禁煙もしたらしい。作品撮影も、ほぼスタントなしですし。「もう歴史映画はいいよ」と言ってました。お疲れ様プラッピー。こんなに見ごたえのある作品をありがとう。