ですが今回の作品はそういった舞台の制約を感じませんでした。
でもなんだろう…映画作品!っていう圧倒的な開放感は少ないんですよね…なんだか小さくまとまっちゃっている印象が随所随所で見受けられる。…考えてみて納得。この作品は音楽やテレビ業界の裏側を描いているからです。なんか懐かしいな…とも思ったら60年代ポップスと言うことに加えて、バブリーな頃の歌番組を見ているようでした。ゴージャスなセット・ギラギラとした派手な照明・ミラーボール・スパンコールやフリンジ・タイトな衣装……。
そしておそらくテレビ的演出を考慮に入れてのカメラワーク。フルショットは少なめでミディアムショットが多いんですよね。特にテレビを介して「ドリームガールズ」達を見るときはそういうことが多い。
…ということで「映画」の楽しさを満喫できたか、ということとなると「ちょっとちがうかな?」とは思いましたが、その辺は矢張り昔の華やかな歌番組を見て育った世代としては非常に盛り上がりました。
ミュージカルといっても、ミュージカル作品ならではの歌うことでその場の関係やセリフを含む心情を語るシーンは三曲程度とかなり少なめ。ここぞ、という感じでがっつり描かれています。
ミュージカルのもうひとつの要のダンスは殆どありませんがステージシーンと、その歌が歌い手の心情を非常に的確に強く反映しているので、それで充分補填が効いています。舞台ミュージカルの映画化という点では十分な出来。満足度は十二分。見事な脚本・演出です。
矢張り本職の歌手の歌唱力はすごい。歌の上手さという点が優れていた『RENT レント』はプロのミュージカル歌手を起用していましたが、ビヨンセは本職の「シンガー」ですからまた歌い方が全然違う。
彼女は美貌もさることながら矢張り本当に実力のある歌手なんだと思いました。レコーディングのシーンは演技なんだから(完全なレコは多分後)ビジュアル重視で歌っているふりをすればいいのに、本当にしっかりと口をあけて歌っているので感心。無個性で音質が軽いと評された彼女の声ですが。心が表現されているようで素敵でした。助演女優賞のジェニファー・ハドソンはミュージカル出身なのかな?歌い方がど迫力でベストキャスティング。彼女の歌い方を効いているとつくづく黒人音楽の基本は「魂がこもった叫び」なのだなと実感します。
『オペラ座の怪人』はその点がいまひとつでしたから。歌っているフリなのでのども震えないし、口も何だかちゅーとはんぱに開いていて「本当にそれでオペラ座じゅうにとどろいているのか?」と思いましたから。
時代背景としては生き馬の目を抜く音楽業界の裏事情という点で面白く見ることが出来ました。私は音楽はそれほど気合を入れた趣味でもありませんし執着もないので詳細なところは知らないのですが、音楽、特にブラックミュージックに明るい人ならまたこの映画の見方は変わるのかもしれません。
人種差別に始まり、金と権力、歌唱力よりもビジュアルイメージ先行の売り込み、才能があるがゆえの協調性のなさ・傲慢さ…多くの人から支持評価されることは才能なのか、果たして人気なのか。才能=人気とは必ずしもいえないのが世の常・人の常。私は傲慢な人間が大嫌いなのであまりエフィには共感を感じませんでしたが…(苦笑)なので彼女の一番の見せ場といえるあのシーンもなんだか「ふーーん」としかとらえることが出来ませんでしたが。
勉強になったのは、同じ歌詞・同じ主旋律でも編曲が違うと印象がこんなに違うのか!と言うこと。本当に目から鱗。エフィの「ワンナイトオンリー」は中島みゆきっぽい(笑)のですけれど、ドリームカールズの歌う「ワンナイトオンリー」は何だか夜の蝶というかはすっぱなイメージが出てくるんです。
今までの元ネタミュージカル舞台の映画の中では一番不満がなく、学ぶことも多く、映画にした価値のある作品でした。