歓びを歌にのせて(よろこびをうたにのせて)

キャッチコピー:
心に響け!天使の歌声

ストーリー

ダニエル・ダレウスは、天才指揮者として誰もが羨むような世界的な成功を手にし、大きな名声を得ていた。しかし、命を削るかのような激しい表現や分刻みのスケジュール、そして絶えず注目を浴び続ける生活のせいで彼の心臓はボロボロになり、次第に孤独と惨めさを感じていった。
ダニエルは、故郷の廃校になった母校の小学校を買い取り、そこに住むことにした。
暖房設備もろくになく、とても人が住める環境ではない場所だったが、彼の胸は生まれて初めての穏やかな気持ちと期待でいっぱいだった。
彼は間もなく、牧師のスティッグ・バーゲンらに小さな教会のコーラス隊の指導を頼まれる。そのコーラス隊は毎週木曜日に教区のホールで練習を重ねていた。ダニエルは再び脚光を浴びることに抵抗を感じてはいたが、彼らの歌を聞き、自ら指導を引き受けたいと熱望する。コーラス隊の指導を始めてから、心から音楽を愛する彼らの気持ちに触れ、ダニエルは再び音楽の素晴しさを実感していく。

レビュー

お薦め度: ★★★ 
しまった!感動作なのに私ちっとも泣けませんでした…。
基本的には大人版「コーラス」。あっちよりも人間ドラマ的には良くかけていると思うんだけどどれもこれも中途半端な印象でした。

■コーラス部隊について
一応群像劇としてコーラス部隊の人たちのエピソードを描いていますが、どれもこれも中途半端です。

主人公が恋心を抱く女性もどこに一体ひかれたのか分かりませんでしたし、単に若い肉体がきっかけなのかな、という感じですし。彼女は実に自由奔放ではつらつとしていて、主人公を外の世界に意識を向けさせるには充分な存在です。
ところが途中で実は過去に年上の男性との恋愛トラウマ話がいきなり語られて、?という印象です。

ドメスティックバイオレンスに苦しむ女性も、ようやく一歩踏み出しましたというだけでそれ以後の展望は描かれません。何も変わらなかった女性が第一歩を踏み出したというだけでヨシとしなくてはいけないのかもしれませんけれど。

オールドミス風の女性も心根が時に良くなったり悪くなったりして、あんたさっき改心したわけじゃないんかいなとつっこみたくなりました。

■コーラス部隊の周囲をとりまく村人について
当初は閉鎖的な村の空気を描くのかと思ったので、主人公が著名な音楽家ということもあってか最初からなれなれしくお願い事をするのには少々びっくりいたしました。
時には、他人を観察するような空気を感じることもありますが、全体的というよりも都合のいいときにしか村意識感は発動しませんでした。

では各個人ではどうなのかというと、過去に主人公をいじめたドメスティックバイオレンスな男性も結局逮捕されてしまってその後どうなるのかが微妙であります。
神父さんも、人間の色々な楽しみを肯定するようになったのかと思ったらやっぱり元に戻ってしまったどころか、ひどい揺り返しで自殺未遂にまで発展してしまっています。彼もまたその後の心境の心持がどうなったか良く分からないままです。

■コーラス自体について
この作品の目玉とされる女性の声は本当に綺麗でしたけれど、矢張り期間限定のお声(「コーラス」のボーイソブラノ)にはちょっとかなわないな…。

ラストで、指揮者なしでコラース部隊がすばらしいハーモニーを奏でるのはいいのですが、観衆まで同様に「天使の歌声」を奏でるのは、申し訳ありませんが少々やりすぎ感が否めませんでした。
村の人間関係ですら完全にまとまったという感じがしなかったのに、舞台で一般の観客に対してそこまでの奇跡が起こせるとは私には思えませんでした。

■主人公について
主人公は心臓病の療養として元故郷に戻ったわけですが、本当にきっかけとして表記されるだけで最後まででてこないので私はてっきり余りにも環境がよかったので完治したのかと思いました。

コンクールに出場するのを拒んだ理由はなんだったのでしょうか?プレッシャーやストレスの件は分かりますが、彼がそこまでかたくなに反対するのですからきっと何かあったのかと思えば特に何もありませんでした。

田舎に余り良い思い出がない割りによく小学校を買い取るものだと思いましたし、過去の同級生と会って何か過去の話が出てくるのかと思ったら、相手は何も思い出すことなく…。

ラストで、何で大喜びで街の中をサイクリングして肝心のコンテストの時間を忘れるのかさっぱり意味不明です。
そこで(映画的に都合よく)心臓病を発症するのもちょっとがっかりです(しかし、あの状況ですと、心臓病が原因なのか頭ぶったのが原因なのかはわかりませんが…)


なんだか不満ばかりぶちまけていますが、「ものすごーくつまらなかった」と言うほどではなかったのです。ただ、何かをきちんと描いてくれそうだと言う小さな期待感ばかりが沢山見えて、結局何もなかったところががっかりだったのです。何もないところを自分で勝手に補填してみることができる人にはかなりの感動作品だとは思いますが、よほどのことがない限り作品の有るがままだけで見てしまう私には不満の残る出来の作品でした。

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