コーラス(こーらす)

キャッチコピー:
歌うときだけ、幸せだった。

ストーリー

世界的指揮者のピエールは公演先で母の訃報を知り、葬儀のために故郷へと戻ってくる。降りしきる雨の中、実家で物思いにふけっていたピエールのもとに、ひとりの男が訪ねてくる。それは、子供時代を一緒に過ごしたペピノだった。ピエールが懐かしい再会を喜ぶ中、ペピノは一冊の日記を手渡す。それは幼い日に自分の生き方を変えてくれた、ひとりの音楽教師の残した形見だった…。

コメント(予告編)

何だかんだといっても、私は音楽が好きなのかもしれません。予告編でのジャン=バティスト・モニエの歌声に鳥肌が立ちました。美しい合唱を聞くだけでも価値があるかもしれません。

レビュー

好き度:★★★★
いい映画です。不満も色々ありますが、「コーラス」が素晴らしいのでそれで充分お釣りが来る作品。意外に演技や演出も出来がいいところが多く損はしませんでした。

出来としては、メインの「先生と子供の交流」が少々凡庸かと思った。
甘いところとか、やろうとして失敗しているんじゃないかとか、そりゃねえだろう、と思わせるところは色々ある。

■筆頭悪餓鬼として二人の子供の名前を挙げていましたので、この二人の先生との心の交流の違いを描いてくれるのかと期待しましたが、一人があっけなく陥落(…)してしまうのは少々拍子抜けか。でも、悪戯の罰としては至極まっとうだし、体罰主義のこの学校のやり方を暗に批判した、一番本人の反省を促せるいい罰ですね。

ピエールは「顔は天使だが心は悪魔」と言う位だからどれ位極悪非道な餓鬼なのかと思っていたら、それほどでも。単に少々度を越した悪餓鬼程度でした。

全体的に子供たちの個性はイマイチ薄いです。「スクール・オブ・ロック」はいちいち濃いからなあ…。マチュー先生も子供達も、それなりの紆余曲折の末にこの更正寄宿校に来ている割には、あまり卑屈なところもないし、子供もぐれていると言う割には「名前と年齢と将来の夢を書け」という命令に素直に従う。(【ここで「意外な事に全員が素直に従った」というト書きが入ったときは少し笑ってしまった。】製作者側もそう思ったんだろうか)

だけど、この映画の場合、先生と子供の交流は「コーラスの上達」で表現しようとしているのだったらこれはこれで正解なんだと思う。
作中の「コーラス」は素晴らしく、これだけで観に来た価値があります。そしてジャン=バティスト・モニエのソロ。本当に涙が出るほど美しい歌声でした。出来れば音響のいい館で観たかった…短館系は厳しい。

しかし、途中から入ってきた暴力的な子供モンダン、正直この子供は出して欲しくなかった。【こんなに性格の曲がってしまった子を一体どうやって素直な心に戻すことができるのだろう?と心配しながら観ていたのに…。

この作品は音楽の「すばらしい一面」を表現している作品で、「暗い側面」も描く事が目的ではない。【確かに全ての子供たちが音楽の魅力で更正されるわけは無いだろうし、きっとあんなかたくななままの子供もいることだろう。判るんだけど納得が出来ない。

彼だけが悪者にされることは個人的に我慢がならないし、本人に対して一言の謝罪もなく、結局濡れ衣を着せられて、ひねくれて、留守中に学校に火を付けるなんて酷い。(この場合の酷いは、この子供が酷いのではなくて、製作者側に対する文句)先生も彼を救いきれなかったことに対する後悔が殆ど見られないのも残念。
…あのオチのためだけに彼は登場したのか?

■…とメインの関係は脚本的には薄い印象ですし、不満も多いのですが、サイドの人間関係がかなりきめ細かく上手く表現されているのです。

こういう「コーラス」という音楽を前面に出している映画だからドラマ的内容とかは正直期待していなかったし、子役だって声の美しさで抜擢されているから演技も期待していなかったわけですけど。

確かに子役の演技は別にどうってことなかったですが、大人!寄宿学校の先生サイドの演技がなかなか素晴らしい。
主役のマチューを演じているジェラール・ジュニョ。何て愛らしいおじさんなんだ。流石「フランスで最も愛される俳優のひとり」。小堺さんみたい。彼の演技はとても良かったです。特にピエールの母親に密か?に寄せる恋心と失恋の落胆ぶりは、微笑ましくも気の毒。

校長先生も味のあるキャラクターでした。冒頭から厳格で体罰主義なこの学校の長たる性格が端的にわかるセリフと演技で、とても入りやすかったです。

■【マチュー先生が学校を去る時の「お別れの挨拶」は反則です。紙飛行機や落下傘はその為の布石のシーンだったのか!!不意を付かれて涙してしまいました。

ラストのペピノと先生のやり取りも、「何故彼が先生の遺品を持っているの?」などという疑問をこれっぽっちも考えていなかっただけに、あっと言わされました。
毎日土曜日に両親が迎えに来ることを待っていた少年はここでようやく「迎え」に来てもらえたんですね。

音楽だけで他を期待していなかっただけに、予想以上の演技の良さと表現の美しさはもうけものでした。

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