出てくる用語が理解できなくて苦労いたしました…。その用語が何のことを指し示すかさっぱりわからない。従来のドキュメント映画の手法としては、こういった機械の構造を説明するには専門用語を避け、ナレーションできっちり説明するか、映像でもって視覚的にその用語の意味するもの・効果なりを一般の人にもわかるように作るのが普通だと思います。
ところがこの映画はこういった演出がほとんどない。あってもわからないレベル。ある程度基礎知識がないと辛いかもしれません。
私はもっと製作者のモーグ博士にも焦点を当てた映画かと思っていました。モーグの魅力や開発の歴史を語ることによってモーグ博士の人生や人となりを見せてくれるのかと。しかし製作者モーグ博士自らがモーグの成り立ちを説明し、モーグを愛する人たちと語らうことで魅力を語る映画でした。
主演がモーグ博士かと思ったら、主演:モーグ・シンセサイザー、ホスト:モーグ博士でした…。監督自身が熱狂的なモーグファンだそうで、ならこんな作りになるかなあ・・・。開発者自ら説明をしてくれるなんて、ファンには夢のような出来事なんでしょうね。でもそうじゃない人には置いてけぼりを食らわされる作りです。
モーグ・シンセサイザーとはなんぞや。
私がどうにか得たしょぼい知識によると、初期のシンセサイザー。現在のシンセサイザーと違いデジタルではなくアナログなんだということ。そしてアナログなので音色が不安定だということ。
デジタルシンセなら設定を同じにすれば、素人でもプロと同じ音が簡単に出せるそうなんですが、アナログはそうはいかなくて真似しようにもできない。それどころか同じ人にも同じ音色が出せるかどうかあやしいらしい。それって楽器としていかがなものかと。
ピアノの方がよほど安定性があると製作者はいいます。でも好きな人が熱狂するのはそこのようです。自分にしか出せない音、その不安定さゆえに様々な新しい表現を可能にする音色。この映画が語ろうとしているのはその魅力のところです。
そういったマニアな監督ならではな上手い演出ももちろんあります。ミュージシャン達のライブでの演奏シーン。キース・エマーソンは何台ものモーグを一度に演奏することで、その音色で不思議な空間を会場全体に演出してみせる。
リック・ウェイクマンが操るのはミニ・モーグ一台で、その演奏スタイルは「普通の」楽器に対するアプローチとさほど変わらないと思うのですが、モーグの音色を上手く生かした浮遊感のあるソロが聞けます。そしてマニー・マークはモーグの能力を知り尽くしていて、モーグってこんなことまでできるのか!という技を披露。
演奏シーンはどれも一分に満たない短さですが、ミュージシャン達それぞれの特徴をきっちり捉え、幅広いモーグの可能性を観客に知らしめようとする。押さえどころはやっぱり上手いです、さすが!
「シンセサイザー」と名づけたのは、機械の構造上の特徴からだそうですが、(その構造自体がどんなものかは私にはわからなかったので聞かないで下さい)同時に全く新しい音を'合成'できるからだそうです。既存の音の、どれにも似ていない音色。それを自分で自由に作り出せる楽器。その魅力が語られる映画ですが、いかんせんその魅力を味わったことがないのでこの映画にのめり込むというところまでは行きませんでした。
バンド経験のある方とか、キーボードマガジン愛読者の方はきっと隅から隅まで楽しめるかと思います。そういった方には星5で。
モーグ博士は謙虚で無邪気で、ちょっとエキセントリックな可愛らしい方でした。「太鼓の達人」に熱狂したり、マニー・マークの演奏にホントにビックリしてみたり(笑)(博士博士、それはアナタの開発した楽器ですよ)ちょっと変わった哲学の持ち主で、なかなか愛すべきおじいちゃんでした。
…と管理人のふりをした師匠のレビューでした。(ばらしちゃったい)