オペラ座の怪人(おぺらざのかいじん)

キャッチコピー:
あなたの声で私の花が開きはじめる。

ストーリー

仮面の下にひそむのは、愛か憎しみか。世界で一番有名な、哀しくも美しい愛の物語。世界最大の観客動員数!8000万人が観た、あのミュージカルが待望の完全映画化。

コメント(予告編)

その8000万人の一人がこの私。(劇団四季を含むならだけど)映画館で予告編を見ただけで鳥肌ものでした。美しい舞台セット・絢爛豪華な衣装・そして圧倒的な音楽。カテゴリ的にちゃんとミュージカルとなっているので群舞やソロが聞けるのかと思うと今から楽しみです。もう絶対に行きます。

レビュー

お薦め度:★★★★
可もあり、不可もあり。
ミュージカル映画としては一級品で、知らない人でも充分楽しめると思います。音楽は本当にすばらしいですし、舞台セットも豪華絢爛で純粋にミュージカルのその面のみが好きな人には文句の無い作品です。

しかし、そもそも私が劇団四季版「オペラのファントム」が大好きで、cd(しかもファン垂涎の的「市村正親版」)を何十回何百回と聞き込んでいるのが最大の敗因でした。
そして私が原作を知らないで「ミュージカル版」にのみ熱狂しているところも。

ということで今回は劇団四季「オペラ座の怪人」ありき、という完全に色眼鏡で判断します。ごめんなさい。

ストーリーは既に知っていた為、殆ど字幕を追うことなく映像と音楽に注目。
衣装は文句なし、音楽も(知っているのに)結構熱狂しました。

では何が不満だったかと言うと…

■声と音
ラウル、クリスチーヌはそれほど違和感がありません(…といっても私がこの二人にあんまり思い入れが無いからどうでもいいのかも)が、ファントムが私の心に響く声質じゃなかったのが痛恨でした。もっとオペラ的に腹に響くような重厚な重みを期待したのに、普通の歌手のような声。しかも前情報で「ファントムとクリスチーヌの年齢を近いように設定した」と聞いた割には余り若々しい印象が無い。

さらに…口パクなのがバレバレ…。そりゃ当然で、あとでスタジオ録音したものをあてがっているのは重々承知しているのですが…【ファントムがクリスチーヌのベットに天蓋を掛けるところで】どう見ても喉が開いていないのに声が伸びまくっている。夢から覚めてしまった。(苦笑)

後、これは私の観た映画館が駄目だったのか、ラウルとクリスチーヌが劇場の屋上で愛を誓うシーンの雑音がひどい。ずっとコトコトと音がする。最初は足音なのかな?と思ったのですが、多分違う。

■演出
意外に「映画ならでは」と強烈に感じるようなシーンが少なかった。
舞台で無理・映画で可能な魅せ方というのは、大勢の登場人物が出るところで一方向からではなく四方八方から撮る。

「見せたい」と思うところにカメラを向け、観客の視線を強制的に「ここ見てね」とアピールできるところです。(ピンスポでは限界がある)あと、俳優の表情をアップで見せることですね。
つまり、クリスチーヌが舞台で歌っているときに舞台袖でマダム・ジリーやメグがどんな表情で見ているかをカット編集で瞬間的に判らせる。

これが割りと普通…悪い言い方をすれば工夫がない感じ。もっと凝った編集をしてほしかった。
そんな私が一番盛り上がったのは、カルロッタをおだてて舞台に立たせるまでの見せ方。ここはロビー入り口から楽屋に入り舞台裏、そして舞台に行くまでの過程を、メイク・コルセット・衣装・カツラと彼女を据え流れるように編集していて素晴らしい。

この点は、マスカレードの導入シーンもすばらしかった。花火を見せてそこからマスカレードの広間に流れるところ。これは舞台ではなかなか出来ません。ただ個人的趣味を言わせてもらえばもっと顔を覆うようなマスクで「人間では無いものの饗宴」にしてもらいたかった。そうすれば今まで実際に姿を見せたことの無い「ファントム」の異様さが出たような。「ヴァン・ヘルシング」のマスカレードはその辺が実に素晴らしかった。(あれは本当に人間じゃないけど)

■ストーリー…ファントムがいかに報われないかは〔こちら
今更、しかも基本ストーリーを理解して行ったくせに文句を言っても始まらないのですが、ファントム報われないねえ…(涙)
毎回毎回いろんなバージョン見てどうにか彼が幸せにならないもんか、とりあえず一寸は報われないもんかと思っているのですが。毎回可哀想ですね。しかも今回が一番可哀想だった。

多分中途半端にファントムを掘り下げているせいです。
ミュージカル版ですとファントムの過去に対してあまり触れられていません。私はこれはこれで正解だと思っています。
ミュージカルは基本的に歌の素晴らしさや踊りの迫力を見るもので、唐突に歌いだすので現実的な人間性の深いところなんて書けない。(嫌いな人はここが嫌だと言う人が多いよね)「コメディ・ミュージカル部門」とくくる人もいるくらいです。
ミュージカルの人間性はペラペラで結構です。私の熱狂ミュージカル映画「ムーラン・ルージュ」だって、話をしてはありがちですし「愛はあげないけど、お金は頂戴」という痛い話です。

今回の映画はファントムの生い立ちについてかなり丁寧な描写があります。(ここは個人的にとても盛り上がった。昭和初期江戸川乱歩風見世物小屋サーカスが大好きだから)ではこれが以降に生かされるかというと…【サルのオルゴール位】。

この生い立ちを描くのでしたら、もうすこしジリーとの関係をきちんと描いて欲しかった。
彼女こそ彼の真の理解者であり保護者であるのだから、ラストで地下への道を教えるに当たってそれなりの葛藤があったと思うのです】。

描かなければラウルの言うとおり「狂気をはらんだ(理解されない)天才」という評価で正しいのですが。(ラウル、お前全然わかっておらん!!!(殴)人の人生を一言で済ますな。)

■演技
クリスチーヌの優柔不断ぶりに腹がたちます。才能のファントムか顔のラウルか決めかねないから困るんだってば。【婚約した時点】でオペラ座を去れば良かったのでは…。話が終わってしまうけど。

全編に渡って「醜い顔」と言っておきながら最後に「【醜いのは心】」と言われても説得力がないです。(ここも「ファントムの生い立ち」がなければそれなりに傲慢な行動の醜さを指していると理解できるのですけど)

ああ、しかもこの映画では【「見せてあげる私の心」が「私、貴方みたいな醜い人間に進んでキスしてあげるくらい、ラウルのことを愛しているのよ。わかるかしら?」的な心で】…参った。少しはファントムのことを理解しているのかと思ったのに…。とても最後に【指輪をあげたこと】で払拭できるものではない。

この作品はクリスチーヌの取り合いな話なので彼女の演技は本当に重要なのですが、エミー・ロッサムの演技が全然読めない。二人の間で葛藤しているといっても、ファントムは「音楽の才能」ラウルは「幼馴染・暖かい人柄・顔」に惹かれているんだから演じ分けが欲しかった。

一番判断に困ったのは【「ドンファン」でファントムがドンファンに扮して出てきてからさらわれるまでのシーン。
ファントムが「騒ぐな」と合図するところや、クリスチーヌがラウルに視線を送ること、ラウルが身を乗り出すことから、クリスチーヌはファントムだと気付いているはず。しかし彼女の演技はただひたすら「ドンファン」を演じているようにしか見えません。
女優魂を見せるには彼女は場数が少なすぎです。ファントムの歌に魅了されていると仮定しても、舞台前にあんなに恐れていたんだから、前半は恐怖や絶望、必死に助けを求める視線であるべきだと思うんですが。

■良かったところ
群舞の中にいたクリスチーヌに気付かなかったラウルが、彼女がソロを歌うことによって彼女と気付き恋に落ちたところ。ファントムが彼女の才能を開花させなければ、ラウルと再会できなかったという運命の皮肉としている。

「ドンファン」がファントムとクリスチーヌの関係を描いていることがミュージカル版よりも明確になったこと。

ファントムに「演技を練習しろ」といわれているカルロッタが一番演技上手だった(笑)。 高慢ちきな態度や、歌うときにやたらこぶしをまわすところ(で、掃除婦がやれやれと耳栓をすることろ)、オペラ座を出るところで自分のファンだと思ってにっこりするのに違うとわかってムッツリするところ。この人本当に上手いです。

メグがとても可愛かった事。まるでお人形のような端正な顔立ちと美しい金髪。声も綺麗ですし歌もなかなか。

有名なシャンデリアシーンは舞台だと第一幕の見せ場だから中盤なんですね。【今回終盤に持ってこられて「?」と思いましたが】休憩が入らない映画ならこれで正解なのかもしれませんね。

■チケット代以上の価値は確かにあります。舞台の五分の一以下の値段でこのゴージャス感が味わえるなら文句は言えない。単純にミュージカル舞台「オペラ座の怪人」を録画した映像を見るよりは余程すばらしいはずです。
しかし「映画作品」としては不満があります。

何故「オペラ座の怪人」を「ミュージカル」で「映画作品」として作ったのか。その意図が作品から伝わってこないからです。

「オペラ座の怪人」の「映画作品」は色々ありますし、「オペラ座の怪人」の「ミュージカル」は既に大成功を収めています。私は舞台とは違う解釈を見せたくてこの作品を作ったのかと思いました。しかしその印象はありませんでした。

では、舞台を本当に忠実に写したものかと言われるとそれも違うような気がしました。
例えば「笑の大学」は舞台を映画化したものですが、演出は映画的ながら舞台を見ているような気にさせられます。三谷幸喜曰く、「舞台は毎回むらがあるけれど、映画は最高の演技を最高の瞬間で撮ったものを繰り返し見せることができる。映画のメリットはそこにある」そうです。

■大人気ミュージカルの映画化と言う意味で観ると、中途半端な人間描写を加えたことが蛇足だと感じますし、原作付き映画として観ると人間描写の薄さに困る。
折角別のメディアで作るのですからその点を大事にして欲しかったですし、あのミュージカルを映画フィルムに完全移植ということなら人間描写はあきらめてカットした「ドンファン」の稽古シーンなどを入れてほしかったものです。

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