キング・アーサー(きんぐあーさー)

キャッチコピー:
すべての英雄は彼より生まれ、すべての伝説はこの戦いから生まれた。

ストーリー

イギリスがブリテンと呼ばれ、ローマ帝国の支配下にあった時代─ローマ軍の司令官であるアーサーは、無敵を誇る《円卓の騎士》を率いて、侵略者に包囲されたローマ人一家の救出に向かう。そこには、グウィネヴィアという女性が無実の罪で囚われていた。グウィネヴィアを解放したアーサーは、彼女の高貴な美しさと、強い信念に心惹かれてゆく。残虐な侵略者は益々その勢力を拡大し、ブリテンは滅亡の危機に瀕していた。時代は今、ひとりの救世主の登場を待っていたのである・・・。「アーサー王と円卓の騎士」を基にしたスペクタクル巨編。

コメント(予告編)

いいですねーこの作品「トロイ」同様、私のツボですわ。
海外サイトを回っている時にキーラのスチール写真を観たのですが、そりゃもういろんな意味で度肝を抜かれました。すげえ…
海外公式サイトのトレイラーで見れるので観てください。

レビュー

お薦め度:★
■何だか、ハリウッド的大作のお約束ってこんな感じ?って印象。とりあえず大袈裟な信念を声高に叫び、大勢の人が戦うシーンを多用し、とにかく何が何でもハッピーエンド。思った以上にビジュアルのいいシーンが少なかったのもがっかりでした。

■「アーサー王と円卓の騎士」についてはほとんど知識無く鑑賞しましたが、キャラクターの薄っぺらさと主義主張の整合性のなさに愕然としました。アーサー、ランスロット、グネヴィア、その他の騎士、サクソン、ブリテン…そのどれにも共感が得にくく主人公のアーサーに至っては主張を叫べば叫ぶほどだめだめな方向に向かっていってしまいました。「こんな下らない理由で一民族は滅ぶし、新しい国がおきる」というテーマの話じゃないよね?正直こんな王様の興した国の民にはなりたくないな。

■衣装やセットの作りの甘さ
私が最初に「これはちょっと…」とうんざりしたのは兵士の冑。金属のプレートは金、頭飾りは赤なんですけど、異様にプレートが金ぴか、頭飾りのふさふさが目の覚めるような赤。素材の配色のコントラストがきつく何だかアニメっぽい。(一般向けならアニメ作品でも気を使った配色が多いのに、実写でこれはなかろう…)普通何年も使い込んでくれば色はあせるし、互いの色のこすれとかあってなんとなく全体的になじんできますよね?それがない。
エクスカリバーが何だかメッキっぽい。オリハルコンだから?鋼って一種独特のくすんだ輝きがあると思うんですが、せめてアップになる時は気を配ってほしい。

■何故アーサーに共感できないか
前半はローマの自由と平等の精神に忠誠を誓っているという設定ですが。そもそも最初からローマに対する忠誠振りが、薄い印象がある。ローマから退役証を持ってくる高位の人への扱いに敬意を感じない。もっとうやうやしく扱ってほしかった。いくら自由と平等を信じているという理由でも、後半がその意思を翻すだけにもっと強烈なインパクトが欲しい。

そしてそんなにローマの自由や平等の精神に心酔しているならば、【いくら高位の人に言われたからって言葉の一つ二つで心変わりしないでほしかった。「だったら自分の目でローマを確かめる」といって欲しいのね。で、現実をみてがっくり・・・なら分かるんだけど。
未来の王にしては簡単に他人の言葉で惑わされすぎ。

彼の生い立ちが父ローマ人母ブリテン人のハーフで子供の頃にブリテン人に村を焼き払われたらしいのだけど、その詳細な説明がかなり中盤。
〔正直ここでのやりとりも非常に幻滅した。【マーリンに「お前も人を殺しただろう?」と問われて「数が違う」って…。殺戮の数で言ったら明らかにローマの方が多いはずだし、そもそも数で図る問題ではない。ここで言うのなら「非武装の女子供老人を殺した」といわなくてはいけないと思う。】〕
ではそれまでに「何故アーサーはこれ程までにブリテン人を憎んでいるの?」と疑問に思うシーンもない。だったらこの生い立ちは序盤に語るべきだと思います。

この生い立ちを中盤にしたことで、彼のポリシーの決め方が「ブリテンが嫌い『だから』ローマ派です」という非常に消去法的な印象を受けてしまった。自由とか平等だからという理由は、「【子供の頃からブリテン人を憎んでいる】」ということを知ってしまうと非常に後付けな印象をうける。
そしてストーリー展開でブリテン人のグネヴィアに惚れて、【自分の信じていたローマが幻だったと気づいたからブリテンに味方しますという流れで、別にブリテンそのものを見直した】という印象がない。
「【ブリテンの女に惚れて、ローマが嫌いになったからブリテンに味方します。ちょうど自由と平等が嘘っぱちだったローマも撤退するし、あとは味方を殺したサクソンを一掃すればブリテンの国を築けます。】一石二鳥だ」という何だか非常にいい加減な理由。

■騎士について
冒頭が、少年ランスロットが徴兵されるシーン。(ここはそうとう良かった)では主役がランスロットなのかといえばアーサー。彼がどんな生い立ちなのかが序盤でまったく描かれない。いきなり大将としてすえられている。私はここで戸惑った。この手の壮大な物語において、生い立ちやバックボーンはまず主役から語られるべきだと思う。この構成でアーサーが主役と言うならば、ランスロットとアーサーが最初に出会う場面を描くべき。

では二大主役なのかと言うとそれにしてはランスロットの主張はあまりにも薄い。何がしたいのか分からない。故郷に帰りたいのか、武勲を挙げたいのか、純粋にアーサーに忠誠を誓っているのか。 アーサーとランスロットの性格が水と油ほど違うとサイトにありますが、それ程の印象を受けなかった。無二の親友らしいけれどどの辺でそれが表現されているのかも分からない。

円卓の騎士達の性格の違いもよく分からなかった。アーサーとランスロットとその他大勢といった印象。どうも冒頭のハドリアヌスの城壁の帰途、馬上で騎士達が語らうシーンで、それぞれのキャラの性格を描きたいのだろう、という気はしますけれど、いっぺんに五人以上の特性は頭の弱い私には掴めない…。戦闘シーンのときにもっと各キャラの特性を出した戦闘を描けばよかったと思うのですが。鷹を連れている人(トリスタン)は非常に印象をつけやすいはずなのに、戦術上鷹が役に立つシーンがまったくない。

■グネヴィアについて
アーサーがグネヴィアと恋に落ちた理由がよく分からない。(助けてあげたとか血が呼び合ったとか宿命とかいう曖昧なのはなしにしてね)
このグネヴィア、大層気が強い設定になっています。
サクソン軍と戦うシーンで、「怖いか?兵隊は女に飢えている」と問われ「【だったら私が守ってあげるわ】」と答えるシーンは思わず吹いてしまいました。(ここはナイス性格表現)
この設定の為、幸か不幸かグネヴィアが強烈なモーションをかけたからアーサーが恋に落ちた感があります。【ブリテンの長マーリンと引き合わせた】のも彼女です。

こうなってくると、【マーリンとグネヴィアがアーサーをブリテンの王に仕立て上げるという奸計に彼がまんまとひっかかってしまった】、という何だかとてもトホホな結論に達してしまうのです。(そして恐ろしいことにこれが私にとって一番納得の出来るストーリー展開…)

そしてこの作品で最大の疑問。グネヴィア(とマーリン)が何故アーサー達と同じ言語で流暢に話せるか、です。どうして?ブリテンの人達は現地語で喋ってるじゃない? 拷問を受けたときに覚えたにしても流暢すぎです。いっそ皆統一の言語にしてくれたほうがありがたかった。

■メッセージ性について
最後に「【戦士は戦場で死んだが、そのことを悲しまなくてもいい。彼らの名は永遠に語り継がれるのだから】」という言葉が入ります。
これでギリギリ均衡を保っていたキャラのポリシー設定が崩壊してしまった。
このラストの言葉は本当に納得が行かない。これでは騎士達の仲間が死んだときの嘆きを否定しているとしか言えない。

私にキャラの違いがわからないのも問題ですが、序盤で「この兵役が終ったら故郷や妻の下に帰るんだ」と嬉々と語り、実際に妻といちゃこらしている騎士もいる。だから皆兵役が終る最後の日に無理難題をいわれて怒るわけですが。

後半で【急に趣旨変えして騎士達がサクソンと戦う】根拠が描かれていない。
仲間が殺された怒り】が根拠だと言うのなら、最後の「戦場で死んだことを悲しまなくてもいい」という言葉はまったく逆の意味をしている。彼は騎士として勤めを果たしたのだから、【弔い合戦】を仕掛けるのはおかしい。

戦闘で死んだことに満足するのなら、【最期のトリスタンの目に映るものが相棒の鷹が旋回する空】ってのはどうなのでしょう?あれは生への執着=死に逝く哀しみを表現していると私は思ったのですが…もしかしてあれは「味方が讃えている」という表現だったのでしょうか?それにしても変だ…。満足と言うのなら、(変な日本語だが)もっとがっつり死んでくれ。

アーサーが自分で戦うと言っておきながら、【ランスロットが死んで「俺は指揮官として間違っていた、神よ本当に死ぬのは自分だ」】と叫ぶのも、おかしな感じでした。
ここで嘆くとしたら「友として」嘆かなくてはいけない。「指揮官」として嘆くのは納得がいかない。戦争をしたら戦士が死ぬのは当然のことで、その可能性を考えなかったという覚悟の無さにあっけに取られました。


……色々考えてみましたがこの作品、1ショット1カットは別におかしい訳ではないのです。信念の為に勇ましく戦うこと、友や愛する人を守る為に戦場で死ぬこと、死を嘆くこと、それぞれは良くも悪くも歴史戦争映画に欠かすことの出来ない要素です。が、それをつなぐ展開や根拠が非常にいい加減でとてもキャラクターに共感を覚えることが出来ない。
…この作品「こんな下らない個人的な理由でサクソン一族は滅び、新しいブリテン国は興りました」というテーマじゃないですよね?こんな王様の作った国の民にはなりたくないなあ。

上司と部下の友情関係というのならば「マスターアンドコマンダー」
戦争の中の恋愛とというのならば「トロイ」
信念や誇り、名誉の為に命を賭けて戦うというのならば「ラストサムライ」
のほうがよりよく描けていると思いました。

よかった点といったら…いい馬を使っていることかな。サラブレットではなくちゃんと脚の太い馬を使っているのでそこは嬉しかった。キーラさんは可愛かったです。

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