トロイ(とろい)

キャッチコピー:
それは、史上最大の愛のための戦い。

ストーリー

世にも美しく無謀な男が、一人の女を略奪した。男はトロイの王子パリス。女は、スパルタの王妃ヘレン。
情熱の余り他国の王妃を奪って花嫁とした、古代キリシャの伝説の恋は、やがて史上最大の戦いをひきおこす。

コメント(予告編)

この映画随分前から話には上がっていたので今年の5月上映決定と言うのを観て「え!まだそんなに先なの?」と驚きました。予告編だけでは内容がまったくわかりませんが、いやもうこれは悉く私のツボツボツボなので(笑)観に行くことは決めています。冒頭の大量の帆船には少々萎えましたが…。だって友達が「あれはクリックで増やしてるんだよ」とか言うんだもん。
古代もの大好き、騎馬戦とは入るとなおのこと、ブラッドピット。しかしブラピが古代ものって一寸珍しい気がしますね。あまりそんな印象が無かったので最初びっくりしました。
そしてオーランドブルーム。相変わらず、猫口と夢見るような瞳で…(誉めてるんですよ)どんな役なんでしょうね。

レビュー

お薦め度:★★★★★★ …既鑑賞の方に〔詳細考察
「何時の時代も出来の悪い子供は可愛いものなのですね。」と思いました。

未見の方には忠告したいことは、歴史大作映画として期待すべき点は期待して観に行くとがっかりします、という点です。文章の流れ上〔後半〕に書いていますが先に読んでからこのトップに戻っていただけるとうれしいです。

元が大長編なのに、三時間で実にうまくまとまっていました。
原典となっている「イリアス」とは10年続いたトロイ戦争の中でのある日に生じたアキレスの怒りから、【トロイの英雄ヘクトルの葬儀】までを描写しているギリシアの叙事詩です。
(一応ネタバレなので隠しますが、できれば見て納得の上でこの作品は見てもらいたいな…)
私の師匠はこの神話が好きで、この作品に過度の期待をしないためのトロイ戦争の要点をレクチャーしていただきました。

■アキレスはどうにも傲慢な性格であるということ。
■パリスは戦争のきっかけを作っただけであとはさっぱり活躍しないということ。
■ギリシア神話なので原作では神様の記述が多く、戦争が始まった時点で【トロイが負ける】ということは既に予言されていた。…のですが神の間で『まるでワールドカップを観戦するような』(師匠表現)盛り上がりを見せたため、それぞれの神が自分の勝手気ままに加勢するので余計な月日と犠牲を払った戦争であるということ。

ギリシア神話って神様が結構気安く出てくるんです。美人にちょっかいかけたり、気まぐれで天罰与えてみたり(ひどい)。パリスとヘレンの駆け落ちエピソードも実は三人の女神のいさかいが元ですし。
この辺を一切排除して、人と人のつながりだけを重視したのは正解だと思います。(というかここまで描いたら三時間でまとまるはずない)
原典では女神から生まれたアキレスに、それは伝説だと本人に一笑に付させるところや、実際に母親テティスを映像として見せることで、アキレスも人間であることを強調しています。

ブラピということで当初注目していたものの、歴史映画というイメージが無かったことや私が彼に関しては短髪好きというものもあって、ちょっと「えー」と思っていたのですがアキレスの強情傲慢さ加減がでてて好印象でした。私が期待するブラピじゃなかったですが役者という意味で高評価!!

バリスは…いくらさっぱり活躍しないといってもここまで情けないキャラじゃないような気がするのですが…(褒めています)トロイ戦争の発端の彼をここまで情けないキャラにしたのもある意味成功。さすがに生まれたときに「トロイを滅ぼす者」といわれたことだけのことはありますな。色々なキャラのセリフでも彼がいかに今までプレイボーイで鳴らしていたかがよくわかりますし。
メネラウス(ヘレンの元ダンナ)と決戦する際【にへっぴり腰で逃げさせた】のはいい演出。

パリスは「絶世の美男子」という設定なのでオーランドを選出したのは上手いですね。彼って若手人気俳優の中では毒気のない顔をしていますからこれだけ自己中心的に行動する役回りを演じても本気で憎めない感じ。(しかし、彼こんな役ばっかりやってていいのだろうか…お姉さんは心配ですよ。そうじゃない役の映画は日本に入ってこないみたいだし)

ヘクトルはすばらしいカリスマ性に惚れました。よき息子であり兄、王位継承者、夫、父親。 父王に代わって実質の指揮官として文句ありません。エリック・バナという役者今まで出演した作品見たことがないんですけど良い演技しますね。評議会で【彼だけが攻撃を反対していたのに、結局父王が攻撃することを決めた】ときの表情は絶妙でした。


ストーリーは【滅亡するトロイ】、という既に決められた運命に向かって流れる時間にそれぞれのキャラクターがどのように思いどのように行動するかを見る作品でした。 アキレスの傲慢な性格が、この戦争を通じてどのように変化していくかを主軸にして、それぞれの人間模様を描いています。

脚本の出来と、キャスティング、役に対しての解釈が上手くて感心しました。 上手く取捨選択をし人間ドラマに焦点を絞り、対照的に描くことでそれぞれのキャラクターが強調されています。

■アキレスとヘクトルという二大カリスマ。
勇ましく死んで後の世に名を残すことに価値を置くアキレスと、妻や子供を愛しそこに戦うことの価値を見出しているヘクトル。 どちらも部下に敬愛される存在でありながらまったく違う考え方の二人の対比はすばらしいです。
まるでアルフォンス・ミュシャの連作「ブロンド」と「ブルネット」を観るようです。(描かれているのは女性ですが)

■粗野であるはずのアキレスがいとこのパトロクロスに見せる情と、ヘクトルとパリスの兄弟関係の同調。
本来は親友という位置づけのパトロクロスをいとこの設定にした手腕も見事!(王子兄弟はアガメムノン、メネラオスのギリシア側の兄弟王も対比されていますね)

■息子達を出迎える父王プリアモスの出迎え方の違い。
ヘクトルは抱擁なのにバリスは額のキスなんです。ヘクトルを一人の立派な男性として認めている反面、パリスはまだまだ子供扱いってのがありありと分かって】いい演出でした。 この差は手を替え品を替え様々なシーンで表現されています。 しかし、駄目な子は父親にしてみたら可愛いのね…ほんとうにパリスに甘いから。

■出陣の際に、落ち着きの無いヘレンに対してどれ程までに夫ヘクトルを心配しているだろうはずのアンドロマケの毅然とした態度。

■【バトロクロスを殺された】アキレスが激怒して、ヘクトルに一騎打ちを仕掛けるエピソードはこの二人の性格の違いを端的に示していました。
怒りに我を忘れて【単身敵地に乗り込み仇の名を連呼することしか出来ない】感情のアキレスと、【父王に死を覚悟した挨拶を送り敵であっても敬意を払うことを忘れない】理性のヘクトル。

■【「いとこを殺された被害者」だったのにヘクトルを殺して仇を討った事によって気持ちが晴れることも無く「愛する人のいとこを殺した加害者」になってしまう】ことで対比から同調への転化。

本当にすばらしいお芝居を見るような作品でした。現在の映画の主流は善悪に揺らぐリアルな人間像を描くことだと思うのですが、この作品はそれぞれのキャラクターが揺らぎの無い個性を持ってそれぞれの役回りを演じています。原典で示されるように、「神々が人間をチェスの駒に見立ててこの戦争を楽しんでいた」ことを遠く比喩していると思うのは私の穿ち過ぎでしょうか。

「それは、史上最大の愛のための戦い。」というキャッチコピーも最初はパリスとヘレンの事だけを指していると思ってましたが、ひょっとして、息子が父親に向ける愛や、夫から妻へ、愛国心などもかけているのだとしたら良いセンスしていると思うんですがきっとこれも深読みしすぎなんでしょうな…。

その他にも印象深かったのはアキレスが【ヘクトルの遺体を包みながら涙を流し「もうすぐあえる 兄弟」と】いうシーン。
作中三度程出てくる死んでいった者への表現。【殺した後でヘクトルの遺体を引きずり回すほどの激怒ぶりを見せたアキレスが、息子の遺体を返してほしいと単身敵地に赴くプリアモスの懇願に心打たれ、また自らの死を意識している】のがわかります。私は好きですね。本当に良い脚本です。

こんなに褒める点が沢山ある作品なのですが満点を出せない点もいくつかありまして。

アクション的に地味というか…。大勢対大勢の戦いがメインでどうやってもcgなんだろうなって感じがします。予告でも言ってますが船多すぎだから。 団体の戦闘も当時の戦術を再現していると思うのですが、「映画」という点ではやや見栄えがおちます。

そして、トロイのセットが気が遠くなるほどちゃちいこと(涙)何故ここで手を抜くの?何世紀にもわたり敵の攻撃を阻んできたトロイの城壁がピッカピカだったり、アポロン像がプラスチックにラッカー塗りみたいな出来なのはどうしたことだ…。
歴史映画として遺跡の再現は見せ場の一つのはずなのに。ここがすばらしかったら文句なく満点だったのにな…。

ストーリー的にはトロイの木馬エピソードの表現。
というか原典の「イリアス」自体が【ヘクトルの葬儀】で終了だからかも知れませんが、監督【もう描きたいことすんだから後はどうでもいいや】感があるようで仕方がないんですけど…折角、【プリアモスの息子を失うことへの独白ともいえるセリフと葬儀のシーン】で流した涙がひっこんでしまいました。
いっそ葬儀のシーンで終わらせる脚本じゃ駄目でしたかしら…監督?

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